タンポと木鉢
 そば切りというと、皆様の多くは大きなそば切り包丁で寸分の狂いもなくそばを切っていく光景を思い浮かべられるかと存じます。 ところが、そば作りで一番大切なことは、そばを練る工程なのです。
 木鉢と呼ばれる直径七十センチ程の大きな鉢にそば粉を入れ、十本の指、二つの目、耳、鼻に全神経を集中した上で第六感を働かせ、丁寧かつ迅速、大胆にそばを練り上げていきます。この作業で、蕎麦の香り、こし、風味の八〜九割が決まるといっても過言ではないでしょう。

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 次にタンポについてお話しします。タンポとはもり汁を入れておくための陶器の瓶です。今日とった汁をタンポに移し、ゆっくりと常温まで冷まします。翌日、タンポを一時間程湯煎し、ゆっくりと常温までさますのです。3日目に入るとやっと一人前のもり汁となり、お客様にお出しできる汁になります。

 ご存知の通りそばつゆは、水、鰹節、醤油、味醂、砂糖だけで出来ています。そのどれもがでしゃばらず、混然一体となった汁こそが最高かと存じます。

 お店に置き換えますと、味、サービス、店舗等すべてのバランスが整って初めてよりよい商売をさせて頂けると考える次第でござます。 私の祖父は、「タンポと木鉢に気をつけろよ」と、父に言い遺し帰らぬ人となりました。祖父の遺言を守り、伝統に恥じぬようこれからも精進していく次第でございます。 「池の端藪蕎麦」を末長くお引立てたまわりますよう、偏にお願い申し上げます。
主人合掌